大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和42年(ワ)859号 判決 1968年6月03日

原告

中須たま

被告

福田文治

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、「被告は、原告に対し、金一七五、〇〇〇円および内金一五〇、〇〇〇円に対する昭和四二年八月二〇日から支払済まで年六分、内金二五、〇〇〇円に対する同日から支払済まで年五分の各割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決と担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

「一、(一) 被告は、原告に、左記約束手形二通(本件手形)を振出交付し、原告は、現在にいたるまで本件手形の所持人である。

(1)金額  一〇〇、〇〇〇円

支払期日  昭和三三年四月二五日

支払地、振出地  京都市

支払場所  福徳相児銀行西陣支店

振出日  昭和三二年一一月二五日

振出人  福田文治(被告)

受取人  (空白)

(2)金額  五〇、〇〇〇円

その他  (1)と同一

(二) 被告の本件手形債務は、満期日より三年の特効期間経過により消滅した。

(三) 原告は、被告に、本件手形取得の対価として、金一五〇、〇〇〇円を支払つた。

(四) したがつて、原告は、本件手形債務が時効により消滅すると同時に、被告に対し、金一五〇、〇〇〇円の利得償還請求権を取得した。

(五) よつて、原告は被告に対し、右利得金一五〇、〇〇〇円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四二年八月二〇日から支払済まで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二(一) 原告は、昭和三三年一二月三一日、被告に対し、弁済期を被告が福徳相互銀行より融資を受けると同時と定めて、金二五、〇〇〇円を貸付けた。

(二) 被告は、昭和三四年五月、同銀行から融資を受けた。

(三) よつて、原告は、被告に対し、右貸金二五、〇〇〇円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四二年八月二〇日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(四) 被告主張の二の(二)の事実は認める。」

と述べた。

被告は、主文同旨の判決を求め、答弁として、

「一、(一) 原告主張の一の(一)、(二)の事実は認める。

原告は、被告に、本件手形割引として、月五分の利息を差引いた金員を支払つたにすぎない。

(二) 本件手形債務時効消滅による利得償還請求権は、時効により消滅した。

二、(一) 原告主張の二の(一)の事実は争う。

(二) かりに二の(一)の本件金員借受の事実があるとすれば、被告は、印刷業を営む商人であり、その営業のために、原告より本件金員を借受けたのである。

(三) したがつて、本件貸金債務は、五年の時効により消滅した。」

と述べた。

証拠<略>

理由

原告主張の一の(一)、(二)の事実は、被告の認めるところである。

原告が被告に本件手形割引金として月五分の利息を差引いた金員を支払つた事実も、被告の認めるところである(原告主張一の(三)の金一五〇、〇〇〇円支払の事実を認めうる証拠はない)。

本件手形は、受取人白地の白地手形であり、現在にいたるまで、右白地は補充されていない。

白地手形の所持人は、主たる債務者に対する関係においては主たる債務者に対する時効期間内に、償還義務者に対する関係においては支払拒絶証書作成期間内に、白地を補充しないかぎり、未完成手形を所持するにすぎないから、利得償還請求権を取得しえない、と解する見解がある。

しかし、手形法第八五条の利得償還請求権創設の根拠である公平の理念から考えて、白地未補充の白地手形上の権利が手続の欠缺又は時効により消滅した場合も、白地未補充の白地手形の権利者は、利得償還請求権を取得しうる、と解するのが相当である。

右設例の場合、白地未補充の白地手形の権利者は、白地未補充のまま、利得償還請求権を取得し、白地末補充のまま、利得償還請求権を行使しうる、と解するのが相当である。けだし、すでに、公平の理念にもとづいて、白地未補充の白地手形(未完成手形)の権利者の利得償還請求権取得を肯定する以上、手形上の権利でない利得償還請求権の権利取得又は権利行使の条件として、白地補充を要求することは、無意味であるからである。

したがつて、原告は、被告の本件手形債務が満期日より三年の時効期間経過により消滅すると同時に、被告の受けた利益の限度において利得償還請求権を取得した、と認めうる。

しかし、手形法第八五条の利得償還請求権の消滅時効期間は五年と解するのが相当であり(最高裁判所昭和四二年三月三一日第二小法廷判決、民集二一巻二号四八三頁)、利得償還請求権の消滅時効は手形上の権利が消滅したときから進行をはじめると解すべきところ、本訴が提起された日が昭和四二年七月二九日であることは、記録上明らかである。

したがつて、原告の取得した利得償還請求権は、時効により消滅した。

よつて、原告の利得償還請求は失当である。

原告主張の二の(一)の事実を認めうる証拠はない。したがつて、原告の貸金請求は失当である。

よつて、原告の本訴請求を棄却し、民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。(小西勝)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例